トマト倉庫八丁目

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「ドキドキ文芸部」直訳のダサさ:DDLCと翻訳の問題

 

 久しぶりに『Doki Doki Literature Club!』の話。

 

 前回書いたのは、日本語化パッチが出るか出ないかくらいのときに書いた紹介+ネタバレ感想記事。

sawaqo11.hatenablog.com

 今回は、ちょっとだけDDLCの翻訳について愚痴を書こうかと思う。

 

 自分は英語のままプレイしたので、ローカライズ版についてはあまりわからないのだが、実況動画をいくつかチラ見した感じでは、非常にレベルの高い洗練された翻訳だと感じた。

 

 問題なのは、ユーザー側で流通している「ドキドキ文芸部」という直訳。

 これがダサい。

 翻訳サイドがタイトルを翻訳せず、また元のタイトル『Doki Doki Literature Club!』が長かったせいで「ドキドキ文芸部」と呼ばれるようになってしまったのだろうが、ダサすぎる直訳なので文句を言いたい。

 

 ダサい理由は、英語の「Doki Doki」 ≠ 日本語の「ドキドキ」 だからだろう。

 つまり、英語ネイティブが「Doki Doki」から受け取るイメージと、日本語ネイティブが「ドキドキ」から受け取るイメージは全く違うものなのだ。

 日本語ネイティブなら「ドキドキ」から直ぐに心臓の鼓動の擬音というイメージが出てくるが、英語ネイティブは「Doki Doki」という語を聞いたことが無い人が大半だろう。聞いたことがあっても、そのイメージはマンガやアニメ、ギャルゲーなど日本のサブカルチャーと結びついたイメージであるはずだ。

 対して日本語の「ドキドキ」は明治~大正時代にはもう普通に使われていた、、それなりに歴史のある言葉だ。

 このように「Doki Doki」と「ドキドキ」では全然違うのに直訳してしまった結果、「ドキドキ文芸部」というダサい翻訳が産まれてしまったのだ。

 「ドキドキ文芸部」では、ライトなサブカルチャー的文脈の衣をまとってる感が全然出ていない、もっさりした訳になっていると思う。ていうか「ドキドキ文芸部」ってゲームのタイトルとしてすげえつまらなそうだ。

 

 だから、「ドキドキ文芸部」と訳さずに正式名で言うか、DDLCと略してほしい。

 

 自分の翻訳力もカスみたいなものだが、自分がもし、『Doki Doki Literature Club!』のタイトルを翻訳するとしたら『Doki Doki! ぼくらの文芸部』とかだろうか。

 あるいは日本のライトなサブカルチャーでコーティングされている感じを強調するために

 『俺の入った文芸部の女子たちが美人すぎる件』

 『オタクな男子高校生の俺が美少女だらけの文芸部に入ったら大変なことになったんだが』

 とかにしてしまっても良いかもしれない。

 とにかく、一見ライトなハーレム系のギャルゲ、という雰囲気にしたいのだ。こういう軽~いタイトルの方が、中盤以降のどんでん返しが効果的になるのは間違いないと思う。

 

 いずれにせよ、英語圏の「Doki Doki」のニュアンスをそのまま汲み取った日本語は存在しないので、完璧な翻訳は存在しないだろう。

 何か良い翻訳案が思いついた方がいたら、参考にしたいのでコメントで教えて頂けたら嬉しいです。

 

 

 これは余談だが、翻訳の上で、日本語が英語圏の外来語になっている場合は注意がいると思う。

 例えば、英語ネイティブが「Banzai」から受けるイメージと、日本語ネイティブが「万歳」から受けるイメージはまるで違う。

 こういうイメージGoogleで画像検索するとわかりやすい。

 「万歳」の画像検索結果はこんな感じ→

https://www.google.com/search?q=%E4%B8%87%E6%AD%B3&tbm=isch

だが、

banzai」だとこんな感じ→

https://www.google.com/search?tbm=isch&sa=1&ei=hJHtWth-gfzyBcWAo9AO&q=banzai&oq=banzai&gs_l=img.3..35i39k1j0i4k1l9.39956.42738.0.43000.13.9.0.0.0.0.612.864.1j1j5-1.3.0....0...1c.1.64.img..10.3.864.0..0.0.J6gx-BjaDfI

である。

 つまり、日本語ネイティブにとっての「万歳」は喜んだときや何かに勝ったときに出る一般的な動作であるのに対して、日本語ネイティブでない人にとっては国粋主義右翼日本軍太平洋戦争のイメージと分かちがたく結びついているのだ。

 趣味で翻訳する際にも、こういう言葉のイメージには敏感になっていかないといけないなあと思っている。

 

 

 さらにDDLCの翻訳についてネタバレありの追記なのだが、

 『Doki Doki Literature Club!』の登場人物の名前から非日本ネイティブが受けるニュアンスは、翻訳に反映できない面白さがあると思う。

 

 何が言いたいかというと、「モニカ」のリアリティレベルが英語圏と非英語圏で違うと思うのだ。

 DDLCでモニカは他のヒロインとは違い唯一自由意志を持つ存在だったが、この「モニカ」の名前に違和感を覚えた人は多いだろう。

 ナツキ、サヨリ、ユリの3人は日本人にありそうな名前、もっと言うと日本のラノベやギャルゲーなどのオタク文脈で目にしがちな名前なのだ。

 対して、モニカは、アウグスティヌスの母である聖モニカに由来する、キリスト教圏においては伝統的な名前だ。*1

 つまり、モニカだけが現実に近いところにいる存在ということを、名前からも示している。対して、ナツキたちは、日本的なオタク文化の中にしか存在しないような、虚構の存在であることを示す名前になっている。

 このように、英語ネイティブがプレイしたときは、モニカの名前は作品の伏線として機能するが、日本語ネイティブだと「モニカ」だけ耳に馴染みのないヨーロッパの名前であるため、単なる違和感にしかならない。

 このあたりも翻訳の限界性を感じるところで、自分だったらどう解決すべきかと考えても、うまい結論が出ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1:ただし、ふつうスペルはMonicaなんだけど