トマト倉庫八丁目

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『Doki Doki Literature Club!』はヤバいゲーム

『Doki Doki Literature Club!』

 

 前回に引き続き英語圏のノベルゲームをプレイした。

 それが『Doki Doki Literature Club!』

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ddlc.moe


 『Doki Doki Literature Club!』は「Team Salvato」が製作した完全無料のノベルゲームである。

 高校の文芸部を舞台に、可愛い女の子4人と楽しい楽しい学園生活を送るギャルゲーだ。

 ギャルゲーをほとんどやったことのない自分にも、このゲームが日本の恋愛ゲームの多大な影響のもとに作られているのはよくわかる。


 しかし、このゲームは、単なるギャルゲーでは決してない。

 

 むしろ恋愛ゲームが好きな人よりも、普通の恋愛ゲームに違和感を持ってしまうような、そういう人にこそやってもらいたいゲームだと思う。


 

 自分は英語版でプレイしたが、どうやらつい先日、非公式ながら日本語化パッチが出たようだ。
 こりゃやるっきゃないね。

ch.nicovideo.jp


 おそらく、『Doki Doki Literature Club!』はジワジワとに人気が出てきて、日本でもいつSNSでバズってもおかしくないと思う。

 そうなると、ネタバレを避けるのはかなり難しいだろう。
 現にWikipedia記事などを含め、ネタバレに触れてしまう危険性は少しずつ増えてきている。
 
 このゲームは、その核心については何の前提知識もないタブラ・ラサな状態の方が確実に楽しめる。
 だから、ネタバレがほとんど出回っていない今のうちにプレイして、新鮮な驚きを体験してほしい。

 


以下は当たり障りのない程度に紹介して、そのさらに下でネタバレの感想を書こうと思う。

 

 

ゲームの紹介

 とりあえず、ここに載っていた、公式ページでの紹介の翻訳があんまり良くなかったので、自分で試訳を作ってみた。
 と言っても自分の訳もそんなに良くないだろうけど。



こんにちは。モニカです。

 

 ようこそ文芸部へ! 大好きなもので、特別な何かをつくること。私はそれを、いつも夢見てたの。さあ、あなたも部の一員。このキュートなゲームで、私の夢を叶えるのを手伝ってほしいな。

 

 他愛のないおしゃべりと、楽しい部活動でいっぱいの毎日。ユニークで魅力的な部員たちと一緒だよ。

 

サヨリ 幸せがなにより大切で、お日さまの結晶のように元気。

ナツキ キュートな見た目と裏腹に、積極的なエネルギーに満ちた女の子。

ユリ 内気でミステリアス。本の世界に安らぐ人。

そしてもちろん、モニカ。文芸部の部長! それが私!

 

 あなたがみんなと友だちになって、文芸部が部員にとって、もっとくつろげる場所になるのを手伝ってくれるなんて、すっごくワクワクしちゃう。だけど、あなたはもう「恋人」なんだって、言っちゃていいかな。――ずっと私と一緒にいるって、約束してくれる?♥

 

 

 ゲームの大きな特徴としては、毎日の終わりに詩をつくるパートがあること。

 
 実際には単語を選択するだけなのだが、どの単語がいいかを考える作業は、実際に自分が文芸部で活動をしているかのよう。

 

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 そしてこのときに選んだ単語によって、各キャラクターの自分に対する好感度が変化するようになっている。
 

 やってみればわかるとは思うが、活動や自然、恋愛に関連する単語を選ぶとサヨリの、可愛い単語を選ぶとナツキの、そして抽象的だったり衒学的な感じの単語を選ぶとユリの好感度が上がるようになっているようだ。
 

 この好感度によって、各キャラクターとのイベントのロックが解除される仕組みになっている。


 

そんな感じで、可愛い女の子たちと楽しい部活動をする、一見普通に見えるギャルゲーなのだが……というゲーム。

 

 以下にネタバレありの感想を書く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 もう未プレイの人は誰もいない? 

 全員エンドロールまで見た?


 

 

 いや、とんでもなく怖いホラーゲームでしたね……。
 
 そして素晴らしくよくできたゲームだと思う。ギャルゲー版ディック的現実崩壊感覚と言ってしまってもいいんじゃないだろうか(それは冗談)。

 


ゲームのあらすじ


 感想に入る前にゲームの大まかな流れをまとめてみたい。

 
 1周目
 普通のギャルゲーかと思いきや、プレイヤーの選択のせいで、学園祭当日にサヨリが首つり自殺をしてしまうという急転直下。今までのセーブデータは全て失われ、主人公はサヨリを永遠に失う。
 
 2周目
 サヨリがいなくなった世界での、ユリのヤンデレ暴走ホラー展開。壊れていく文芸部と、壊れていくゲーム。バグのような演出がプレイヤーを襲い続ける。そしてユリの自殺と、その死体をまる2日以上見守り続ける主人公。

 3周目
 モニカがプレーヤー自身に直接語りかけ、衝撃の真相を明かす。ゲーム内では、モニカのみが自由意志を持ち、他の3人の文芸部員たちは主人公に恋をするようにつくられたプログラムにすぎない、ということが明かされる。モニカは3人のデータをデリートしてしまい、モニカとプレーヤー二人きりの閉じた世界が生み出される。そしてその世界は、プレーヤーがモニカのキャラクターファイルを、実際にブラウザ上で消去することによって終了する。

 4周目
 モニカが消え、三人の女の子たちが帰ってきて、一周目の日常が戻るかと思いきや、モニカの残滓は残っていた。ゲームのなかに幸せなどないと気付いたモニカによって、ゲームは自壊し始める。もう二度とは戻らないあの日々。ここでスタッフロールが流れ、エンディングとなる。そして実際に、ダウンロードし直さない限りゲームが一切プレイできなくなる。

 

 

緻密に計算されたプレーヤーの感情


 プレイし終えてみると、このゲームが非常に巧みに構成されていることがわかる。
 プレーヤーの感情の動きを、完璧に計算して構成されているのだ。

 
 一周目はプレーヤーは普通のギャルゲーを楽しみ、主人公に好意を示してくれるキャラクターたちに、自分も好感を持つように誘導される。よくあるギャルゲーの生ぬるい世界だ。

 しかし、サヨリの自殺によって、事態は急変する。主人公に無条件な好意を持ってくれるような、ギャルゲー的な単純さしかないように思えたキャラクターは、うかがい知ることのできない、複雑な内面を備えた人物であったのだ。サヨリの死は、このことをプレイヤーに強烈に自覚させる。ここでのプレイヤーの感情については、このブログ記事などが良い例かもしれない。

 

 次に、自分の選択によってサヨリを失くしてしまったプレーヤーは、サヨリを何とかして救う方法はないのか、あるいは、どうすれば救えていたのかを探るために2周目に突入せざるをえない気持ちなる。しかし、微かな希望や慰めを求めてゲームをし続けるプレイヤーは、さらなる恐怖のどん底に突き落とされることになる。

 

 そして3周目での、特権的な存在としてのモニカの登場。
 モニカのこうした設定はいくつか伏線が敷かれていた。まずは上に自分が試訳したゲームの紹介文。目ざとい人はここでゲームを紹介しているのがなぜサヨリではなくモニカなのか、そしてなぜモニカは1周目の攻略対象から外れているのか違和感を持つだろう。また、1周目の途中でプレーヤーに「大事な選択肢の前ではセーブするよう」忠告するセリフが少しだけ出てくる。
 ともあれ、この3周目のでモニカは、キャラクターたちのデータを消去することによって、複雑な内面を備えているように思えた3人の女の子たちが、絶対的に単なるデータ上の存在でしかないことを、否応なしに突き付けてくるのである。

 モニカ自身も、ゲーム内では絶対的な力を持つ自由意志を備えた存在でありながら、フォルダから消去すれば消える運命にあるのは変わりがない。モニカの境遇を知ったプレイヤーは、罪悪感を感じながらモニカのフォルダを削除することになる。ここまで来たプレイヤーが感じるのは、もの寂しい寄るべなさである。
 
 一度キャラクターたちが、消せば消えるデータでしかないと認識してしまったプレイヤーは、1周目の最初によく似た4周目も、ニセモノでしかないのだと感じざるをえない。

 そして案の定、文芸部の活動は再開されることなく、永遠に失われてしまうのだ。

 

感想

 自分は製作者が意図したであろうプレイヤーの感情の流れに思いきり乗せられてしまった。だけどそれは、このゲームをめちゃくちゃ楽しんでプレイできたということでもあるはずだ。

 よくここまで緻密に練り上げ、PCゲームの特徴を活かした傑作を作ったたものだと思う。

 

 既存のギャルゲーに対するアンチテーゼとしての要素は、製作者の、日本のアニメ・ゲーム文化に対する愛憎入り混じった感情によるところが大きいようだ。

kotaku.com


 この和風テイストなゲームが、海外で作られたものというのは得心がいく。文化の持つ「いびつさ」や「歪み」は、その文化の中にいる人間にとってはなかなか把握しきれないものなのだろう。*1
 
 日常系アニメやギャルゲーの「日常」にどうしても違和感をもってしまう自分としては、「よくぞ作ってくれた!」と言いたくなるような作品だった。

*1:フォロワー数人から、日本のゲームにも似たものはたくさんあるという指摘をいただいた。これに関しては自分が完全に無知だったので、ここの文章は撤回させていただきたい