今週の海外短編:Lavie Tidhar "Judge Dee and the Limits of the Law", M. Rickert “The Little Witch”, など
海外短編ディグりのモチベーションを保つために、毎週土曜日の夕方にその週に読んだ短編からいくつか選んでを紹介していこうと思う。
今週はファンタジー、ホラー多め。
Lavie Tidhar "Judge Dee and the Limits of the Law"
ラヴィ・ティドハー「ジャッジ・リーと法の限界」
『完璧な夏の日』のラヴィ・ティドハーの最新短編。
吸血鬼のジャッジ・リーとその人間のパートナー、ジョナサンの冒険譚。
吸血鬼は人間を喰らい、そしてそれは罪にもならないが、吸血鬼を殺した吸血鬼はジャッジ・リーに裁かれることになる。吸血鬼バロン男爵のもとに訪れたリーとジョナサンは、バロン男爵の弟が殺されたことを知る。元人間で弟の妻の吸血鬼、クィーン・イザベラが弟を殺したと主張するバロン男爵。イザベラのもとに向かうリーとジョナサンは、法で裁くことのできない犯罪を目の当たりにすることになる。
人外と人間のコンビが好きなオタクなので面白く読めた。短編一つでは食い足りないので、シリーズ化してほしい。
トリックなどの仕掛けはミステリファンにはちょっと食い足りないところが多し、無理があるんじゃないかと感じた部分もあったが、それでもキャラクターの魅力で楽しく読める。
P H Lee "The Vampire of Kovácspéter"
P・H・リー「コヴァチペテルの吸血鬼」
毎年若い娘がヴァンパイアに連れて行かれる小さな町、コヴァチペテル。毎年の惨劇にしびれを切らした住民は、ヒーローに助けを求める。とうとうやってきたヒーローはヴァンパイアの住む古城へと向かい、そこでヴァンパイアが娘をさらう理由を知ることになる。
吸血鬼つながりで読んでみたが、これはあまり面白くなかった。というか、どこに面白さを感じればいいのかわからないまま読み終わってしまった感じ。ヴァンパイアが娘をさらう理由も、ヒーローの設定ももうひとひねり、ふたひねりくらいほしい。P・H・リーの作品でいまだに当たりを引けていないので、単純にこの作家が自分に合っていないだけかもしれない。
M. Rickert "The Little Witch"
M・リッカート「リトルウィッチ」
ハロウィンになると主人公の家へ毎年お菓子をもらいにやってくる、赤いブーツを履いた魔女の仮装の女の子。その少女は、毎年全く見た目が変わらず、歳を取っていないように見えるのだった――。
年を取るとともに偏屈になり孤独を深めていく主人公は、あるハロウィンの夜、誰もお菓子を貰いにこなかったことに気がつく。悲しみにくれる主人公だったが、夜半に目覚めると、枕元にあの成長しない不思議な少女が立っていた。
主人公は少女と暮らすことになり、季節の移り変わりのなか、少女とともに最期の青春を迎えることになる。
やや話がとっ散らかっている印象だが、これは面白かった。語り手(主人公)が怖いタイプのホラーでもある。結局何が起きたのかはよくわからない部分も多いが、主人公の孤独と、少女との彩りに満ちた暮らしの対比が美しい。
ディグりの合間の息抜きに、橋本輝幸さんがSFファン交流会で紹介されていたオススメリストの短編を拾い読みしているけど、どれもこれも面白い。
今週はMatthew Kressel"The Meeker and the All-Seeing Eye"を読んだけど、これもめちゃくちゃ面白かった。グロテスクだけどコミカルな描写からはじまって、宇宙の壮大な核心へと一気につながっていくところに感動する。
こんな感じで、毎週何編か紹介していけたらな、と思う。けっこう大変だけど。