トマト倉庫八丁目

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Phantonymな日本語

 比較的最近発明された英単語にphantonymというのがある。

 意味は「よく誤用される言葉」、「その音・読み方のせいでAの意味に思われることが多いが、実際はBの意味である言葉」だ。

 

 初出として挙げられている例を見てみよう。Wikipediaからの孫引きになるが、ここではオバマ元大統領の言葉が例示されている。

 

 The term was coined by Jack Rosenthal in his 2009 article for the NY Times.[1] An example of phantonym usage noted in the article was when Barack Obama said, "I just want to make sure that we're having an honest debate and presenting to the American people a fulsome accounting of what is going on in this program," where he meant "full" instead of "fulsome". Phantonyms are usually commonly confused words.

 

(拙者訳)

 phantonym(幻語)という用語は、2009年のジャック・ローゼンタールによるニューヨーク・タイムズの記事のなかで造られた。phantonymの用例として、記事中ではバラク・オバマの言葉が言及されている。オバマが「私がただ確実に行っていきたいと思うのは、公正なる議論をし、アメリカ国民にこの施策で行われていることについてfulsomeな説明をすることだ」と言ったとき、彼はfulsome(行き過ぎた、不快な)ではなくではなくfull(十分な)の意味を意図していた。phantonymとはよく通俗的に混同される言葉のことだ。

Phantonym - Wikipedia

 

 このように、オバマほどの知識人でも、音が似ているせいで全然違う意味であるfullとfulsomeを間違えてしまうというのだ。 

 

 ほかによくphantonymとして挙げられる例に

 

noisome:noisy「うるさい」と同じ意味に思われがちだが、実際はannoyの関連語で「嫌な臭いの、不快な」の意味。

enormity :enoormosに関連する「巨大さ」という意味に思われがちだが、本来は「非道さ」の意味(ただし実際は(巨大さ)としての用法も認められている)「

fortuitous :fortune「幸運」に関連して「幸運な」の意味に思われがちだが、「偶然の」という意味

 

などがある。

最近できた言葉なのであまり定義も定まっていないようだが、よく誤用される言葉のなかでも「音のせいで誤用されている言葉」と捉えるのがよさそうだ。

 

 もしかしたら英語は接頭辞・接尾辞の影響でphantonymが生まれやすいのかもしれない。

 日本語ならよく誤用される「性癖」のように、単語の意味の類推が誤用に繋がることが多いのに対して、英語だと音が誤用に直結するのだろう。

 とはいえ、探してみれば日本語にもphantonymと言えるような「音のせいで誤用されている言葉」がある。

 たとえば

 

すべからく:「すべて」との発音の近さで「すべて、悉く」のように誤用されることがあるが、実際は基本的には「べし」とセットで「当然」の意味

鑑みる:「考えて」との発音の近さで「鑑みて」は「考えて、考慮して」と誤用されがちだが、実際は「照らして、(他の事例などを)参考にして」の意味

 

 などがあるだろう。

 これらは、その誤用の理由が「他に音が似ている間違えやすい言葉があるから」以外に考えにくい。

 日本語は音から意味を推測しにくい言語だと思うが、それでも音から意味を誤解してしまうことがある。

 英語ならなおさらだろう。そう考えると、2009年までその現象を言い表す語彙がなかったことは少し不思議にさえ思う。